ますかれーどホテルな話(後編)

※制限時間40分でブログを書きます。

 

同窓会にも呼ばれない私を昔のよしみで誘ってくれた男はみっちゃんという愛称で当時の仲間に呼ばれていたらしい。当時の仲間というのは、5年前、私が浪人していた時代に同じ男子寮(通称ドーミー)に住んでいた連中のことである。

ドーミー時代、私はみっちゃんと斜向かいの部屋に住んでいた記憶はあるが、みっちゃんと何か喋った記憶はほとんど無く、わずかに覚えている彼のエピソードは、富山育ちの元バスケットボール部員だと自己紹介していたことと、おそらく彼が覚えにくいと思っていたであろう英語の慣用句や数学の公式を自室の壁に貼っていたのがチラリと見えたことくらいのもので、この日みっちゃんに招集された理由が、久しぶりの再会から30分経った時点でも謎のままであった。

 

あまりにも関係が薄すぎる相手からの誘いということもあり、マルチ商法の勧誘だと決めつけていた私はバチバチに警戒しつつ怖いもの見たさで彼と会ったが、マルチ商法の勧誘でよく使うような小ぎれいな飲食店には案内されず、彼の宿泊するビジネスホテルの一室に通され、コンビニ飯の相談が始まってしまい、私の提案で召集されたにも拘らず遅刻してきた不届き者に料金負担のおつかいを命じることに決まった。

 

自分から招集したのになかなか自ら話題を振ってくれないみっちゃんと、他に召集されたドーミーメンバーが来るまで警戒モードを保とうと余所行きの私は良い具合に喋る量が釣り合って、意外にも楽しい会話を堪能できた。余所行きの私は、今後の相手との関係を配慮しないので普段の3倍くらいよく喋るし、よく笑う。それが一対一の場面だとより顕著になり、みっちゃんとは過去に喋った覚えがなかったにも関わらず、私はがんがん彼をみっちゃん呼びして頭をぽんぽんはたいていた。素面である。一応チョコレートをひとかけら、ここに来る前に食べていたので、酔っていたとすればチョコレート酔いである。

余談ではあるが、カカオに特有の成分であるテオブロミンを経口投与したネズミは作業記憶の課題の成績が向上するという話を聞いたことがある。*1

 

他のメンバーを待つこと1時間、ようやく1人が来て、残りのもう1人が来て全員揃ったころには午前0時を回っていた。BGMとしてつけていたテレビでは新型コロナウイルスの感染拡大状況を報告するいつものニュースがやっており、若者3~4人での密室の会食を悪者扱いしていて、まさしくその状況がちょうど整ってしまった現状に、つい素で笑ってしまった。私以外の3人は、「なんかマスク着けたくなってきたな」と言いつつも、着けるそぶりすら見せない。私は遅刻部隊の買ってきたサラダとかにかまをさっさと食べ終えて、ひとりマスクを着けたら後に続くひとも居るかなと思い、装着してみたが、誰も続かなかった。みっちゃんと私以外はそれぞれいくらか喋ったことも一緒に遊んだこともあるので、その後私-みっちゃん間での会話は展開されることはなく、午前3時になった段階で喋ることもなくなり、ホテルのペイチャンネルでアダルトビデオを見る流れになりかけたので、私はランニングの時間だからと部屋を出た。

その場に居たドーミーメンバーは酒の力を借りつつ*2、赤裸々に現状と将来の野望を語ってくれていたとは思うが、私はみっちゃんとのマンツーマンの時間から精神的な仮面を外すタイミングを失い、ずっと「楽しく」お喋りをしていた。

 

何はともあれ、浪人時代という私にとって忘れたい過去の一つである時期にともに似たような境遇に置かれた人たちが今は楽しそうにやっており、それが過去の私を少しだけ慰めてくれたような気がして、その日は久しぶりに前向きな気持ちで朝を迎えた。

 

前後編に分ける内容でもなかった気がする。40分経つので終わり。

 

※ドーミー時代お気に入りだった曲その2

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