シャーデンフロイデをくすぐる作りをテレビドラマで見つけた話

まえがき:

一昨年の秋に脳学校メンバーからお借りした、ダニエル・カーネマン著の「ファスト&スロー」で読んだ内容に「プライミング」という概念があった。これは、前に得た情報によって認知や行動がその影響を受けるといった感じの概念で、例えば、「グレー」「杖」「年金」のような「老化」に関連する単語のリストを見た人は、その単語を見たと覚えていなくても、老化とは全然関係のない単語リストを見た人よりも動きが無意識のうちに遅くなってしまうらしい。認知的な側面の例では、食事に関する単語のリストを見た後に、「so〇p」という穴埋め課題をやると、soup(スープ)と補いがちになるといった例が挙げられていた。(単語のリストを変えれば石鹸を意味するsoapと補うようにプライミングすることもできるらしい。)

そんな概念を知っていることもあって、私は外に出る前は何を見るかに気を付けるようにしていて、引っ張られたくないときには極力何も読まないし、逆に何かに注目していきたいときにはその概念に近い文献を読んで、頭をある種偏らせた(つもりである)状態で外出をする。

話は逸れるが、「ファスト&スロー」を借りたのと同時期によく分からないコンサルティングの会社のお兄さんに、「インターンに行って社会の仕組みを知った後は街中が情報の海に見えて、歩くだけでめちゃくちゃ疲れるようになる」と言われたことがあった。インターンに行こうが行くまいが元々外界は情報の海には見えていて、人間の注意というのは一定方向に決まった量の中で分配されるようになっているわけで、インターンに行くというプライミングによって前とは違ったところが気になっているだけの話で、「疲れる」は言い過ぎじゃないかな、と当時は思っていたが、もともと注意を一切使わずボーっと生きていた人間にはプライミング後に周りを見るのは疲れるものなのかもしれないと今は思う。どっちにしろ、あの量産型イケメンお兄さんは人様の時間を奪って講釈を垂れることが出来る立場の人間じゃないと思っていて、あんな人間にはなるまいと今でもあのシーンは私の中で反芻している。

まえがきが長くなったが、そのプライミングという作業を今日は「シャーデンフロイデ」という概念に対して行った後にドラマを見てみたという話が今回のブログである。

honto.jp

 

 

本文:

シャーデンフロイデとは、他人の些細な不幸について「しめしめ、ざまぁみろ」と思う、「他人の不幸は蜜の味」的な感情のことである。このシャーデンフロイデという感情の名前をざっくりと知っていた私(心理学検定1級)は、クリスマス・年末のノリでくっついてイベント終わりに壊滅的な人間関係の終わりを展開する男女を目の当たりにした際に不意にこの単語を思い出し、改めて「シャーデンフロイデ」とネットで調べてみたというのがことの発端であった。

私は趣味で心理学の一般向けの本を読むのが好きなだけで専門家ではないので、詳しいことはよく分からないが、日本語の文献なら読めるかなと思い、一つピックアップして、これを読んでみた。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsre/16/1/16_1_36/_pdf)

この文献に書いてある内容の中で、私に残った解釈は、「男性は自己評価が低いと妬みからのシャーデンフロイデを喚起しやすく、女性は罪悪感からシャーデンフロイデは喚起されにくくはあるけど、自己愛が強いとその罪悪感からの抑制は働きにくい」ということである。

経験的にもこれは腑に落ちる内容で、確かにざまぁみろと笑っているのは自己評価の低い日陰者の男性のほうが似合う(私もこっち側の人間だと思う)し、女性が不幸な人をみて共感してしまい「ざまぁみろ」と思うのも悪いんじゃないかと思いがちになるというのも直観的に分かる(というかそうであって欲しい)し、散々周りにちやほやされて自分大好きな女性が不幸者に共感せずあざ笑うという絵も想像しやすい。なるほど、これは確からしいことを言っていそうだ、と私は思い脳学校の方にもこの記事は共有した。

これに加えて、最近読んだ「野蛮な進化心理学 : 殺人とセックスが解き明かす人間行動の謎」という本の内容に、「男性は美しい女性を見過ぎると美しい女性の基準が高くなり、女性は社会的に成功している男性を見過ぎると成功していると見なされる男性の基準が高くなる」といったものがあり、これも「男は容姿にうるさくて、女は年収にうるさい」みたいな良く聞く話とマッチしていて頭に強く残っていた。

www.hakuyo-sha.co.jp

検索して、ちょっと記事を読んでドラマをみただけの話で冗長に文章を書いてしまい、ブログ読者の体力が心配なので、ここからは手短に書こうと思う。

シャーデンフロイデ」についてネットサーフィンを続けようと思っていた矢先に、母親から声を掛けられ、母親の録画したドラマを一緒に見ることになった。年内で実家にいるのは盆と正月くらいのものなので、それぐらいは嫌な顔もせず対応したかったが、一緒にドラマをみる理由として母親が挙げてくれたのが「あなたは恋愛を知らないからこれを見て学びなさい」というものだったので、私はボロクソに叩く心構えでこのドラマを見ることとなってしまった。我ながら短気で幼稚な性格である。

ドラマを見て思ったことは、このドラマはさっき学んだ心理学的手法が応用されていて、思ったより面白くみることができたというものであった。

まず、主人公?はイケメンで社長といった、自己肯定感の低い男性ならめちゃくちゃ妬みそうな設定であり、この男性は後にアルバイトにまで没落する。シャーデンフロイデをくすぐる演出である。ついでに女性からすれば「社長」というステータスの異性が見られておいしい。没落してもなお優秀なのでカバーも効いている。

また、ヒロインは当然一般的な基準から見ればかなり美しい女性が採用されていたとは思うが、ヒロインの女性も美しくすることでそこまで目立つ感じではなく、かつ、設定としてアイドルを引退したアルバイトという役で、この女の子がシンデレラストーリー的に社長と恋に落ちるが、この子自体は大して生活レベルが上がったりしない。自己肯定感の高い女性視聴者からすれば役の設定自体がシャーデンフロイデを刺激されるものであるし、そうでない女性視聴者からすれば共感しやすく社会的に成功している男性との恋を疑似体験できて気持ちいい作りになっているのであろうと感じた。

「トンカチを握った人はすべてが釘に見える」といった具合になってしまっている感も否めないが、ドラマの構造にこういった心理学的な知識の応用がきちんと織り込まれているのを感じられて、私はこのドラマを(母の意図したものとはおそらく違うカタチで)楽しむことが出来た。これまでドラマはフィクションであり子供だまし、時間の無駄だと感じていたが、ここから学ぼうと思えばできるものだなと感じ、改めて楽しく退屈せず生きていくうえでのプライミングの重要性を実感した。

www.tbs.co.jp

 

あとがき:

ライミングのまえがきでダラダラ書きすぎたことを反省したい。

要領を得ず、最後まで読んでいただきありがとうございました。

もうちょっと簡潔に書けるように工夫します。