毎日最低3㎞走る男が1時間足らずの試着で疲弊した話

※この文章は60分以内という制限時間の中で書いたものです。

 

やりたくないことをやっていると疲労感を覚え、「ストレスが溜まっている」と口走る方は多くいらっしゃるかと思うが、これは誤用であると思う。ストレスという反応はそもそも「逃走か闘争か」といった状況で起こるもので、疲労感を麻痺させてその危機的状況を脱するために起こる一種の疲れに対する麻酔のような生体反応のことで、疲労感を感じているという状況においてはストレスを感じていないはずなのである。これは言い換えれば、けっこうハードな毎日を送っているのに疲労感を感じずはつらつとしている人こそ常時ストレスにさらされている可能性があるとも考えられ、過労死などはこういったストレスによる麻酔で身体に蓄積した疲労に自覚がなくなってしまうために起こるものという見方もある。*1

私はその意味でストレスフリーな生活を送っているので、割といつも疲れた顔をして人に会うことが多く、「死んだ魚の目をしているね」「ボロボロのヤギみたいだね」などと形容されることがしばしばある。

疲れた顔をしていると周りに気を遣われてしまい申し訳ないと思うので、日々ランニングをして体を鍛えつつシッカリと睡眠をとり、食事にも気を遣うようにはしているがいまいち緊張感のない毎日を送っているせいかストレスをあまり感じず、夜にはちゃんと疲れて眠れる。

 

今回はそんな私が久しぶりに服を買いに行き、慣れない試着室で緊張してストレス状態に陥ったあげく、そこから解放された際にどっと疲労感に襲われて10時間くらい(普段の倍)眠ったというお話を書いていこうと思っている。(ここまでで残り38分)

 

ことの発端としては、後輩から「私服がダサすぎるので一緒に選んでやる」との申し出を受けて、良い機会だと思いそれに乗ったところから始まった。

実際私には、(それが身になっているかは置いておいて)お勉強ばかりしていて私服がパジャマ並みにダサいという理由から「がり勉パジャマ野郎」略して「がりぱじゃ」という通称があり、過去に服の首周りの部分がボロ雑巾の様になっているパジャマで講義を受けていたところ全然喋ったことのない学部同期に「心配になるのでそのファッションはやめてくれ」と注意されたことがある。

相手があまり喋ったことの無い人間だったので、そんなこと言われる筋合いはないと一瞬思ったが、相手にとっても私は喋ったことのない奇妙な格好をしている成人男性なわけで、その気持ち悪さなり得体のしれないものに対する恐ろしさから推測される「話しかけリスク」を乗り越えて私を不快にさせない心づかいの感じられる言い回しで注意してくれるその勇者の行動に胸打たれて、私はそれ以来パジャマで講義を受けることはしなくなったのだが、服の選び方を勉強したわけではないので普通にダサい男子大学生になっているというのが現状である。

そんなおダサな私をコーディネートしてくれようと後輩はユニクロ無印良品を一緒に回ってくれて、あまりにダサすぎて手がつけられないと、最終的に店員さんにコーディネートしていただく次第となった。この時点で私は結構後輩に対する申し訳なさと自身のファッションに対する感覚の未熟さのために無力感を覚えていて、店員さんが私のコーディネートを考える上での事情聴取をしてくださっているのも上の空で応答しており、正直自分がそのとき何を言っていたかあまり覚えていない。

余談ではあるが、体内で合成される麻薬様物質の中でも大麻成分似のものをエンドカンナビノイドと呼ぶが、これはランナーズハイなどの際に出て苦痛を忘れるのに一役買っているのではないかという見方もあり、苦痛な記憶の忘却にも作用しているのではないかという話もある*2

そんなわけで、店員さんや後輩にご迷惑をおかけしながら試着室までたどり着いたのだが、店員さんのご厚意で3パターンものトータルコーディネートを用意していただいたのでここから結構な時間(といっても1時間足らず)をその狭いカーテン一枚で隠された空間に閉じ込められることとなった。

またまた余談ではあるが、体感の時間がいつも感じているものよりも長く感じる現象にはアドレナリンが関与しているのではないかという見方がある*3。(緊張しているときは時間が長く感じるのではないかという話)

結局私はお金の持ち合わせが足りないことを理由に、服を一着も買わずに店を出たのだが、後輩には「むしろ退歩したかもしれないですね」と呆れられてしまった。

その日は雨だったので、傘もささずに濡れたまま夜道を歩き、帰宅後は歯も磨かず気を失うように眠った。

 

久しぶりに慣れないことをしたという意味では私にとってはいい経験であったが、多大なるご迷惑をおかけしたうえに結果が出なかった不甲斐ない話である。