読書感想文「地球星人」を読んで

※極力内容には触れないように気を遣ったつもりですが、以下に小説のネタバレが一部含まれている可能性もあるのでご注意ください。

 

小説を読んで声を出して笑ったのは久しぶりのことで、長時間ぶっ通しで本を読んだ(19時から23時くらいまで)が、読後感としてはすごく爽快な気分が残った。それくらいに大いに笑わせてもらった作品であった。

 

この作品を読もうと思った背景としては、札幌脳学校のTwitterアカウントでフォローしている面識のない方のツイートでこの本を見つけ、そのツイートについているリプライ欄でも本の内容が「考えさせられる」という趣旨で絶賛されているのを見て、これは面白そうだと思い購入に至った。面識のない方々の噂に触発されての行動である。

これは本を書店で手に取ってから気づいたことではあったのだが、この著者は過去に芥川賞を獲った方らしく、本には芥川賞受賞作を超える衝撃のラスト!的な文言がデカデカと書いてある大層な帯が巻き付いていて、レジに並んでいる最中に「またミーハーな買い物をしてしまったな」と自身の変えられない性分による浪費癖を少々反省した。

 

この本を買う際には他の本と一緒に購入したため、買ったその日には読まず、購入してから1週間後の散々Youtubeを見てスクリーンを見飽きるようなタイミングが訪れた怠惰な一日の終わりにようやく本を開いた。本を読むのにはかなりの体力を必要とする性分なので、日の終盤に本を読むという重労働ができるくらいに相当ダラダラした挙句の夜であった。

 

そのような状態で読み始めてからは、あまり考え込むことはなくサラッと読める感じの作品で、読み終わるまでに4時間もかかってしまったのは、途中で眠くなってきて、睡魔と戦いつつブログで書ける程度には頭に内容を入れようと努力した結果で、眠たくない朝に読めばもっと早く読み終わったんじゃないかという読みやすい文章であった。

内容的にも言うほど考えさせられるかな?考えさせられている人間はもっと普段から人付き合いや人の内心について慮って生きた方が良いんじゃないかな?というのが率直な感想で、この本に深い意味を見出した読者はどの記述からそのような思考に至ったのか、そっちの方に興味が沸いた。

私は多分、この本で言う「地球星人」サイドの人間で、その枠「工場」というシステムにおいてあまり苦痛を感じたことが無い人生を送ってきた為にか、どうしてそうなってしまったのか理解できなかった部分がいくつかあった。中でも最も印象的だったのが、「工場」という社会の構造を見出した主人公一派が「工場」を抜け出そうという発想を持ちながら「工場」サイドの人間の中でもゴリゴリの親族が所有権を有する土地に寄生して、そこで脱「工場」勢の繁栄などを夢想してしまう能天気かつ無計画ぶりが垣間見える点である。脱「工場」を目指す主人公一派は、その親族及び所属コミュニティに問題があって社会は「工場」だみたいな思考に至ったのであるから、どうせ蒸発するつもりなら、せめてもうちょっとその「工場」思想形成の原因となった人間の生活圏内との関係が薄そうな地域に向かうという発想にならないものかねと率直に思ってしまった。なんでずっと関東と長野でウロウロしているんだろう、なんで関東と長野辺りで生きた経験則しか持ってないくせに「地球星人」という大きな主語で人間全体をくくる思想を展開できるんだろう、なんで女性器が「工場」の為のパーツだと思いながらいつまでも「撤去」しようという発想は出ないのだろう、なんでホームレスにはなろうとしないであくまで家に拘ってるんだろう、と色々な疑問が湧きまくった。もしかしたらちゃんと読めてないのかもしれないという不安が強い。

爆笑した点としては、幼少期主人公視点からの人間関係のあるあるポイント観察が秀逸で、レイザーラモンRGさんのネタを見ているときと似たような感覚で、さんざん引っ張った末のちょこっとあるあるという構造が私にとってかなりツボだった。私はこんなに親戚付き合いが密な家庭ではないので、親戚の集まりあるあるを描写しているパートは、なるほど、そういうものなのかと勉強になった。

私はこの小説が、日本人あるあるを詰め込んだうえでサイコパス感をざっくり盛り込んだ、コメディとして解釈した。

 

読み終わって、いったん眠ってからもう一度内容を思い出してみるに、この本はある程度日本人としての常識があって責任感のある人間でないとこの世界観に没入できないのかなと感じた。また、これが売れているということは、この本を面白いと思って周りにお勧めしていたりする人も多いんじゃないかとも想像できるが、正直私はもう一回読みたいとは思わないし、お勧めするほど面白くはなかったかなと思っている。

が、人気の本だという評価は使えそうなので、誰か適当なお気に入りの女の子にプレゼントしようかなと考えている地球星人的な発想を読後も続ける私であった。

 

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